兒玉生城「血みどろの夏服を裂き脱がせけり」(「俳句界」8月号より)・・


 「俳句界」8月号(文學の森・7月25日発売予定)の特集は、「句集『広島』を読む」。執筆陣は、飯野幸雄「句集『広島』について」、句集『広島』からの抄出選句は石川まゆみ+俳句界編集部、また句集『広島』の「『序』の抜粋、体験記抄出、『おわりに』抜粋」、他に、池田澄子、今瀬剛一、石川まゆみ、角谷昌子、小林貴子、照井翠、高山れおな、マブソン青眼、堀田季何、生駒大祐。もう一つの特集は「追悼 黒田杏子」。論考と句の抄出50句は髙田正子、その他、「黒田杏子を語る」に、三島広志、中岡毅雄、今井豊、岩田由美、坂本宮尾、五十嵐秀彦、筑紫磐井、董振華。

 句集『広島』は、原爆投下から10年後の昭和30(1955)年に、「句集広島刊行委員会」によって刊行された。飯野幸雄は、


 昨年(令和四年)春頃、広島俳句協会の会長や俳人協会広島県支部の事務局長も務めた故結城一雄宅に保管されていた「句集『広島』」を長女の広藤曉子が見つけた。(中略)

 主題を原爆に絞った俳句を中央の俳句雑誌などを通じて公募し、発起人が編集委員となって手分けして選句をし一冊の句集にした、応募総数一万一千余句、応募者六七四名、内約二五〇名が被爆者であった。


 と述べている。その五〇〇冊がまとめて発見されたのだ。また、高山れおなは、


 (前略)そんなわけで。『広島』についてもあまり期待せずに読んだ。が、案に相違して、これは充実した内容を持つ本であった。とりわけ、震災俳句にはごく乏しかった、当事者による現場性に立脚した痛烈なリアリズムの実践例に少なからず出会えたことに感銘した。


 という。ともあれ、本誌より、いくつかの句を挙げておこう。


  炎天下溝越ゆるごと死者またぐ       金行文子 

  原爆屍運ぶ兵士らみな少年         川上季石

  蜩やあはれ糞まる力なし          小西信子

  剥かれたる髪のうぜんにひつかゝり    新庄美奈子

  蠅群るるすでに死臭をもつ吾か       橘 冬青

  ごうごう寒風焦土にはローラーがかけられる 田端小蛙

  蛆捨てし掌もて被爆児むすび食ふ     南波みづ平

  みどり児は乳房を垂るる血を吸へり     西本昭人

  蝉時雨盲ひの我に夫死すと         和田敏子

  啞蟬の胸へ きりきり 火箭とほる     野田 誠

  爆心地で汗する無数の黙(もだ)に合ひぬ 相原左義長

  葱提げて焦土の果の虹あふぐ        伊藤踞石

  被爆屍体手で除(よ)河水すくひけり    佐伯泰子

  炎天にうらみの眼あるばかり        名田霊草

  夏もマスク手のケロイドは隠し得ず     宮原双聲

  ケロイドの道化面 ひんむいてもひんむいても 嗤っている

                         伴震太郎 

  杭のごとく

  墓

  たちならび

  打ち込まれ                高柳重信  


    わが祷り

  音楽を降らしめよ夥しき蝶に        藤田湘子 

  広島や卵食ふ時口開く           西東三鬼 

  原爆ドーム遂にいっぴきの蟻を見ず    関口比良男



       撮影・中西ひろ美「脱ぎ捨てて二足歩行だ明易し」↑

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