小宮澄江「記念碑の忍の一字や風薫る」(『若菜』)・・


 小宮澄江句集『若菜』(俳句アトラス)、序は林誠司。その中に、


  澄江さんの俳句は、『源氏物語』への傾倒やボランティアが一段落した頃に始まる。その頃、ご夫君を亡くされたこともあり、新たな生きがいを模索していた頃、地元の方に句会に誘われ始まった。平成二十一年から令和三年まで俳句結社「海」に参加し、現在は地元の星雲俳句会、梅句会に参加されている。今回の句集も「梅句会」の指導者で、ひだか里山俳句「開耕」主宰の水村治雄さんのご協力もあり、出版する運びとなった。(中略)

  百選の水つめこんで山笑ふ

  畦道はつねにぬかるみ稲の花

  濡れながら光つてをりぬ甘茶仏

  川に散り川へせり出す冬紅葉

  ぼうたんの一夜の雨に崩れけり

 自然永は格調が高く、魅力的な作品が多い。一句目、ペットボトルか水筒に清水を汲んだのであろう。その水を汲み、春山を仰いだ時に春到来を実感したのである。一句全体が生き生きして、心の躍動が見える。「百選:というのも現代的でいい。


 とある。集名に因む句は、


  真向ひに真白き富士や若菜摘む      澄江


であろう。また。著者「あとがき」には、


 句集名は思い出深い『源氏物語』の登場人物「若菜」から、また、私の誕生日が一月七日、七草の日なので「若菜」としました。


 とあった。ともあれ、以下に、いくつかの句を挙げておこう。


     早逝のの母へ

  母となり祖母とはなれず昭和の日

  八十の初心者講座夏館

  遠き日のまた遠くなり敗戦忌

  春愁や亡夫のつけし襖疵

  吊橋に一歩の軋み天高し

  老いきれぬ心のままや竹の春

  野の花で仕上げし過疎の花御堂

  野菊咲く終着駅は無人駅

  仏前へ告げたる米寿寒九の水

  手の甲に試す口紅春兆す


 小宮澄江(こみや・すみえ) 昭和8(1933)年、埼玉県狭山市生まれ。



      撮影・中西ひろ美「いたはずのバッタが小さすぎる夏」↑

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