宮川夏「夢二見し榛名に雨の山つつじ」(『心の振り子』)・・
宮川夏第一句集『心の振り子』(文學の森)、装画・石倉政苑。扉挿画は著者。序は、石倉政苑。跋は、松田ひろむ「時にやささしく、ときに激しく」。その序の中に、
(前略)俳句や俳画を通じて親しくなり、その後東京から滋賀の自宅まで習いに見えました。以後交流を深め、「俳壇花藻社」に入会され、同人として活躍されています。
趣味も多彩で、英語俳句に力を入れておられ、今回俳句と俳画、英語俳句とバラエティにとんだ、楽しい句集にとても期待しています。
やじろべえのような半生寒明ける
稽古着の固まっている余寒かな
紅白梅空を狭しと色尽くす
路地裏に三味の爪びき紅椿
とあり、また、跋には、
(前略)情念というか情感の人と言えば、私にとっては桂信子であるが、夏さんも桂信子―—澁谷道につながる女性俳人への道を目指していると位置づけてもいいのではないだろうか。
銀杏散る真っ只中に酔いしかな
これはいうまでもなく〈銀杏散るまつたゞ中に法科あり〉(山口青邨)、〈銀杏散る万巻の書の頁より〉(有馬朗人)を踏まえたものであるが、彼女は「酔いしれぬ」とする。この「しれぬ」は「痴れぬ」である。
「銀杏散る」から自分自身に返して「酔いしれぬ」はいかにも女性である。それを彼女の秘められた激情といってもいい。
とあった。そして、著者「あとがき」に、
義理の父母が俳句をしていた事に刺激を受け家事の合間に俳句を詠みはじめました。義父母の亡き後、本棚に仲良く並ぶお二人の句集を見る度に、私も何時かは句集をと考えておりました。そんな折「文學の森」の方から句集のお話を頂き、二十年目の記念に初句集を創る事にしました。
と認められていた。ともあれ、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておきたい。
白酒の売り口上も買いにけり 夏
「舞踊俳句」清元「お夏」
お夏追う清十郎の朧影
林芙美子邸
つくばいに春愁浮かせいたりけり
余震なお地蔵の陰になめくじり
顔洗う水に目のあり原爆忌
戦なき美しき大和や星流る
終止符のうちどころなくちちろ鳴く
新宿の裏も表も鰯雲
秋空や逆立ちの子の泣きぼくろ
詩の箱に座りピエロの冬灯
ポケットを空っぽにして青き踏む
春を待つ身のせせらぎを聞きにけり
宮川 夏(みやかわ・なつ) 1950年、東京生まれ。
撮影・中西ひろ美「晩凉にかがみて拾う懐かしさ」↑
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