宮本奉子「星近きところに七夕」(『華麴』)・・
宮本奉子第2句集『華麴』(東京四季出版)、帯文は中田水光。それには、
商ひは黴の華なり麹室
宮本奉子さんはともかく元気で誠実な方である。姿勢と精神が一句に凝縮されている珠玉の作品を堪能していただきたい。
とあった。また著者「あとがき」には、
父母が俳句をやっているらしい、という漠然とした話は子供の頃、私の耳にも入っていた。その後、学生時代は親元を離れていたので父母が句会を開いていた様子も、また、私の目の前で作句していたことも一度も見かけたことはなかった。
一度だけ、四十歳を過ぎた頃、「あなたも今からやれば少しは作れるようになるわよ」と母に勧められたことがあった。当時子育ての最中であり、全てに余裕のない生活、時間の使い方の中で、父母の言葉を遠くに聞くばかりであった。
平成十年、中田水光主宰の講座を受講、以来ご縁を得て二十五年を経た。
とある。集名に因む句は、「商ひは黴の華なり麹室(むろ)」であろう。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。
玉砂利を踏んで戴く淑気かな 奉子
鬱の字に僅かな隙間春兆す
耕して今年の土の色とせり
団扇風届くはずなき人に遣る
浅草の高楼くづれ雲の峰
空蟬を満載にして虫の籠
耳福得る寝覚に蓮のひらく音
扇もていざよふ月を昇らせむ
新海苔の旗そこここに日本橋
冬の虹通学電車が通り抜け
綿布団重きに生きて昭和果つ
春隣色変へてみる試着室
宮本奉子(みやもと・ほうし) 1943年、北海道生まれ。
撮影・芽夢野うのき「やってくる昨日の声の梅雨の花」↑
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