依田しず子「たちまちに過去となる今冬苺」(「樹(TA CHI KI」373号)・・
俳句通信「樹」5月号・通巻373号(樹の会)、「特集・東日本大震災を詠む」も145回目。誌面は、依田しず子の訃報による哀悼の意に満ちている。愚生がお会いしたのもたしか「俳壇・歌壇の会」での二度ほどだったと思うが、瀧春樹とご一緒だったと思う。ブログタイトルに挙げた依田しず子「たちまちに過去となる今冬苺」のに句に、東井紫穂「樹界逍遥」は次のように記している。
チャーミングな方だな…それがしず子さんの第一印象である。リュックを背負い、首から一眼レフカメラを提げたしず子さんは、にこやかに待ち合わせの横浜駅構内に現れた。昨年の一月、常雄さん、晶子さんもともに横浜でお会いした時のことだ。しず子さんの一眼レフで、お店の人に記念写真も撮ってもらった。俳句談義はもちろん、ご家族のこと、ご自身の病気のこと…口角をきゅっと上げて、軽やかにお話されていたしず子さんと、掲句の季語である「冬苺」が重なる。冬苺はとても可愛らしい形状だが、食べると甘酸っぱい。どんなの幸せな時間も永遠ではないからこそ、それが切ない。過ぎてゆく時間の儚さを冬苺という季語に委ねたしず子さん。「みんなでまたお会いしましょう」と別れたのに、たちまち届かない未来となってしまった。
他にも《瀧注》として「依田しず子氏の原稿の件」には、
同氏の4月号の原稿は遅着の為、今5月号に掲載しました。
筆跡から推察するに、誰かに頼んでの代筆ではないかと考えております。絶句となります。
犬が来て終る一幕猫の恋 日野市 依田しず子
爆撃に瑕深くなる春隣
少子化を杓子定規に春時雨
息足りぬ二月よ憎悪ばかり積む
晩年の子規の食欲冴返る
とある。ともあれ、本誌本号にある依田しず子(2月22日、死去。享年67、句集に『天使のブラ』)の句と他の方の句のいくつかを挙げておきたい。あわせて、ご冥福を祈る。
知らん顔するほど美し竜の玉 依田しず子
諦めに勝る未練で年明ける
草の花風に従う他はなし
天才に早世多し秋桜
散ってなお浅き夢見る萩の枝
旧友のように並んでいる冬木
逢いに行く蜜柑の花のたそがれを
野路菊や泣けよ泣けよと言って泣く
呼気ひとつ躑躅の山の下に居て
白芙蓉咲くは終はりの少しまへ
冬薔薇明日咲くものと散るものと
たんぽぽの理性感性飛び立てり
雲ふたつ蒲公英になるみたまかな 林 照代
春来る母の遺産はずぼらな俺 瀧 春樹
言ひ足りぬ言の葉さくらさくらさく 東井紫穂
霹靂のしず子の知らせ春の闇 井上佐知子
村中の景を変えたり春の霜 井上ちかえ
依田しず子桜吹雪を身にまとい 太田一明
友一人春の空へと旅立てり 尾上美鈴
白百合は仏間の闇を押し開く 金岡教子
ふるさとは楢葉町だった3・11 鍬塚聡子
潮風をゆるく巻き込む春キャベツ 坂本晶子
待ち人の来ず雛真闇に還りたり 矢野澄湖
ぼたもちを供え今なお仮住まい 宮川三保子
芽夢野うのき「まこと小さきすみれとならん夢のあと」↑
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