千葉皓史「櫻貝夜深き風は聞くばかり」(『家族』)・・・


 千葉皓史第二句集『家族』(ふらんす堂)、著者「あとがき」には、


 (前略)平成三年に上梓した第一句集『郊外』の序で、石田勝彦師は以下のやうに書いて下さつてゐる。

 「句集の終りの方に、次の句がある。

   冬川につきあたる家族かな

 どうやら千葉君の演技は、「家族」にまで達したらいし。どういふ演技の出来映を見せてくれるか、彼の句の読者のたのしみが一つ増えたことになる」

 亡師の期待にお応へ出来たはずもないが、かうして第二句集『家族』を出すまでに三十年といふ途方もない歳月が過ぎてしまつた。勝彦師の墓前と、その亡き後も親身にご指導下さった綾部仁喜師の墓前とに、深くお詫びを申し上げなければならない。

 本句集には、『郊外』以後、ほぼ平成末年までの作品を収めた。


 とある。ともあれ、愚生好みに偏するが、本集より、いくつかの句を挙げておきたい。


  枯菊の沈んでゆける炎かな         皓史

  あたたかき夜の畑となりにけり

  預かりし日傘の中で待ちにけり

  青き踏むひとり離れて踏む汝と

  押入れが中から閉まる青嵐

  牛小屋の高くらがりを夏燕

    鎌倉

  外套の中なる者は佇ちにけり

  桐の花母の齢は笑むばかり

  もつれたる秋蝶ともに小さけれ

  摘みきれぬ土筆の中を帰りけり

  置かれあるものの中なる風知草

  雪解風そのとき母を失ひぬ

  菜の花を挿す亡き者に近々と

  亡きあとも母大切や龍の玉

  父の亡き母の亡き草青むなり

  

 千葉皓史(ちば・こうし) 1947年、東京生まれ。

 


        撮影・中西ひろ美「学校に怪談ありき新学期」↑

コメント

このブログの人気の投稿

救仁郷由美子「遠逝を生きて今此処大花野」(「豈」66号より)・・

小川双々子「風や えりえり らま さばくたに 菫」(『小川双々子100句』より)・・

福田淑子「本当はみんな戦(いくさ)が好きだから握り締めてる平和の二文字」(『パルティータの宙(そら)』)・・