北大路翼「ガジュマルの穴よりストの生まれ来る」(「里」4月号・第211号)・・


 「里」(里俳句会)、特集は「緊急暴露プロジェクト/真実の北大路翼『流砂譚』全推敲過程」。論考は川嶋ぱんだ「北大路翼推敲論」、過程を読むに、谷口純子「ジャカランダ」、雨宮慶子「俳の翼」、大文字良「素の翼」、松下揚柳「リボーン・再生」、叶裕「五味の味わい」、藤井美琴「荒魂」、也屁「ダークチェリーな君が好き」。特別寄稿15句は北大路翼「またやーさい」。新刊の北大路翼句集『流砂譚』の収録句559句の内、著者校正で朱が入ったのが166句、実に29.7%に及んだという。そして、川嶋ぱんだは言う。


 (前略)北大路翼さんの作品を読んで、まず感じたのは、執拗なまでの視線への執着である。徹底的に執着した対象への視線。それは、一句における感触の追求でもある。北大路翼作品の推敲過程を眺めていると、光景が現実であれ、虚構であれ、一度詠まれた作品の構図に執着していることは誰でもすぐに気がついたことだろう。原句と推敲後で表現方法が大きく変わったとしても、描かれている世界の眼差しhさ、疑いようがなく同じ視線の先の光景である。(中略)

 原句 どこからも邪魔な都庁や初日待つ

 初校 初日の出都庁がなかつたら見える

 原句も初校も見ているのは元旦の都庁。原句から初校にかけて大胆な言い換えを施しているが、視線は真っ直ぐに都庁の一点を見つめている。両句とも都庁がなければ見事に拝むこちができるはずの初の日の出のことを言っている。しかし、推敲を施した初校の方が、「邪魔な」と形容した原句よりも、より邪魔な様子が際立って伝わってくる。 

原句 探梅の背に水筒のごりごりと

初校 探梅や背に水筒のごりごりと

再校 蕨狩背に水筒のごりごりと


原句 紫陽花が紫陽花らしい場所にある

初校 十薬が紫陽花らしい場所にある


原句 初蟬やベンチに煙草の焦げ一つ

初校 初蟬やベンチに煙草の焦げ数多


その他、文中より、推敲例の句をいくつか挙げておこう。


原句 鬼の面つけてもつけなくても百合子

初校 鬼の面つけてもつけなくても都知事


原句 駅伝や袋の菓子の滓

初校 駅伝やポテチの滓を集め食ふ

再校 箱根駅伝ポテチの滓ばかり

念校 往路うすしほ復路コンソメ味


原句 失敗のまんま出しちやふ文化祭

初校 失敗のまんま出しちやへ文化祭


原句 筍を茹でこぼしたる昼間かな

初校 筍を茹でこぼしたる幸福感


原句 ごきぶりの髭振るやうな余生かな

初校 ごきぶりの髭振つてゐる余生かな 

 

その他、同誌同号からいくつかの句を挙げておきたい。


  昨日より重き灯油や冬惜しむ            菊池洋勝

  たちこぎはたかいときけんおっこちる     あいうえおんぶ

  クローバーガチャ回しては俺の生     一猫(にのまえねこ)

  目借時長押のうえの鯨尺              平井 充

  人をみて桜をみては眠くなり            柳堀悦子

  耳皮(ミミガー)にミソつけ食らふ春の口      井谷泰理

    大江健三郎・坂本龍一逝く

  さくらさくら憲法九条今こそ旬           上野遊馬

  山吹の黄の断崖や磯千鳥              雨宮慶子

    言葉を生らしめて詠める

  (ひとにあら)ざるに櫻をにれかむか       島田牙城

  朧夜のタクシー珈琲店ね入る            瀬戸正洋

  七里御浜に軍兵寄する春の夢            谷口智行


 他に連載の、叶裕「無頼の旅/恐怖・北条民雄について」、上田信治「成分表174」などがある。



     撮影・中西ひろ美「夢見月つっかえ棒は年々ふとし」↑

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