井上治男「空濁る海境(うなさか)越えし黄砂降る」(第16回「きすげ句会」)・・


  昨日、4月20日(木)は、第16回「きすげ句会」(於:府中市生涯学習センター)だった。兼題は「鶯」+雑詠2句。一人一句を挙げておこう。


   つくし伸ぶ土手の向ふの草野球         髙野芳一

  雨あがるみ霊(たま)の園の初音かな      清水正之

  全山の桜響鳴(どよ)めき杏子逝く       山川桂子

  水溜りに底なしの空春の雲          久保田和代

  鶯の潜(ひそ)み音(ね)包む深みどり     井上治男

  糸電話かけてみようか春うらら         井上芳子

  廃母校かこむ山々やまざくら          濱 筆治

  陽だまりにうぐいす色のラテ二つ       大庭久美子

  玉川の星くず落ちた初夏の昼          寺地千穂

  欠伸して子猫もトラに春暑し          杦森松一

  ミツバツツジに不意の明るさありにけり     大井恒行


 愚生のみが頂いた句を、以下に挙げておきたい。


  ピッチャー婆ぁ三振するや青楓         寺地千穂

  山藤や蔓八方に咲きのぼる          久保田和代

  「トンガリウグイス」ちふ渾名の旧友(とも)と再会す 山川桂子


★次回第17回は、5月11日(木)13時半~,於:府中市中央文化センター。兼題は「父の日」(父でも可)。


 

★閑話休題・・原民喜(杞憂)「暗き春見知らぬ街に帰り来ぬ」(「ペガサス」第16号より)・・


 東國人の連載「雑考つれづれ」の「原民喜の俳句」④は今号で最終回。その中に、


  夏の野に幻の破片きらめけり    杞憂

 夏の花では「便所」の中で、

「突然、私の頭上に一撃が加えられ、目の前に暗闇がすべり堕ちた」

 これが、原民喜の被爆の瞬間である。その後、彼は何が起こったのか分からぬまま、縁側へ出て周りが見えてくるとともに、自分の家の周りが壊滅していることに気づくのである。そして、それは時間が経つにつれて、周りではなく、「広島」という街そのものの壊滅ということに気づくことになるのである。


 とあった。ともあれ、本誌本号より、いくつかの句を挙げておこう。

  

   芹・薺・御形・繁縷ここは廃村     きなこ

   小春風魔女の手の内干してある    篠田京子 

   如月の豆本弾圧の俳句       瀬戸優理子

   煮はまぐりの艶ぷっくりと言い寄られ 田中 勲 

   二月果つ虚ろなるもの両の手に    中村冬美

   君を守る兵器は要るか冬すみれ   羽村美和子

   音楽的な曲線であり寒卵       水口圭子

   虎落笛私の声も入ってる       陸野良美

   干し大根髭が情緒不安定       浅野文子

   大旦猫は鏡にジャブまたジャブ    東 國人

   銀杏黄葉気まぐれ風のアコーデオン  石井恭平

   ミサンガ切れた咲いてもいいよ菫   石井美髯

   春の旅架空の地図を持たされて   伊藤佐知子

   水温む旅の続きをあと一歩     伊与田すみ

   梅散るや狸が自分に戻れない     岡田淑子

   春の波優柔不断なギタリスト     木下小町

   木の根開くUFO離陸準備よし     坂本眞紅



         撮影・中西ひろ美「春の整列その先は曇り勝ち」↑

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