平敷武蕉「『ワァ―』とさえ言えず裂ける喉である」(「南溟」第14号)・・


 「南溟」第14号(『南溟』同人会)、詩、短歌、俳句、小説、論考、書評、エッセイなどの総合、沖縄市から発行されている同人誌。中のエッセイ、泉惠得「夫婦字(みーとぅあざ)」には、


 私の住所は、沖縄市与儀で、沖縄口では「ゆーじ」と言い、隣の比屋根と対にして「ゆーじ・ひゃーぐん」と呼ばれている。この様に隣り合った地名を一緒に呼ぶのを「夫婦字」と言う様だ。「うちま・へんな内間・平安名」「すなん・やまぐすく楚南・山城」「ぼま・へんざは浜・平安座」「ゆぬび・かーさち栄野比・川崎」、沖縄市の「いーし・なーざとぅ江洲・宮里」「ちばな・まちむとぅ知花・松本」(中略)等々実に沢山有る。つらつら慮(おもんぱか)るに、沖縄は同じ地名が多いから、混同を避ける為、隣と対にしたのではなかろうか。


 とあった。面白い。また、論考の真壁朝廣「ケインズの一五時間労働から思いを馳せる」には、


 (前略)手っ取り早いので斎藤幸平の『ゼロからの資本論』から引用する。「世界の富豪のトップ二六人の資産総額は、地球上の人口の約半分、実に約三八億人の資産に匹敵する」などと言われると驚嘆すべきことだと思うが、それが常態となっている世界である。


 とある。また、句を内蔵する詩編の一部を引用しよう。


      沖縄                与那覇けい子

(前略)私が 中学生の時

    同級生が 俳句大会で全国一に輝いた

    「原潜の記事しきりなり 島の秋」


    私が高校生の時

    ドルが 円に変った

    5月15日は 土砂降りの雨だった (以下略)


  ここで、イレギュラーだが、「あとがき」から少し紹介しておきたい。


 ■二月の十二日だったか、安里琉太氏から電話が来た。(中略)それで、「琉太さんか」と親しみを込めて応じると、相手は改まった口調で「南溟」13号を送ってくれませんかとのこと。▼二月二八日付けの琉球新報の「短歌季評」を読むと、私への批判が掲載されている。やはり、「南溟」はそのために所望したのであろう。電話での応対とはガラリ変わって、驕慢で尊大な論調。論点外しも不誠実である。私は「玉城洋子論」として評しているのに、それへの言及は全くない。私が「人種差別主義者に仕立て挙げられてしまう」とその「誤読」について長々と具体的作品評を提示しながら述べたが、それについての言及もない。また、私を批評するにあたって、なぜ、渡英子の《民族が違うと言はれ黙したり、沖縄(うちなー)びとに混ざりて座せば》の歌を引用したのか▼さらに、私の表現活動のみならず、西川徹郎が唱え私が共感する〈反俳句〉〈実存俳句〉に対しても、「空虚」であり、「蛮勇を振るうのもほどほどにしたい」とヘイトまがいの嘲りを述べている。有季定型俳句が量的広がりを見せる現状への驕りから出た発言だと思えるが、見上げた「蛮勇」である。(中略)この論理でいくと、基地撤去や辺野古反対を叫ぶことも、「空虚」であり、「蛮勇」だと言い出しかねない。(以下略)


 以下略、にしたのは、愚生のブログでは、これ以上の引用、紹介は困難である(なにしろ、3ページ強ある)ゆえ。興味ある読者は、直接、本誌本号にあたられたい。ともあれ、本誌より句歌を挙げておこう。

     

  一ミリもないのに人は忌み嫌う本に彷徨(さまよ)う蟻しだいてる 真壁朝廣

  埋めないで土砂も鳴く遠い海笛       平敷武蕉

  



★閑話休題・・阿部完市「野に春に吉事と雨とゆらゆら」(『音数で引く 俳句歳時記 春』より)・・


 岸本尚毅監修・西原天気編『音数で引く 俳句歳時記 春』(草思社)、表紙2カバー裏の惹句に、


 良い季語を思いついたのに、五七五の定型に合わない。そんなときにとても重宝な俳句歳時記です。定型を大切にしながら季語を生かす句づくりに必携。…監修者・岸本尚毅

 定型にどう収めるかには音数が大事。いままで多くの人がひそかに悩んでいた音数と季語の問題をはっきりさせ、実作に役立つように考案された画期的歳時記。


 とある。本書の最初は2音の季語「(はる)」、最後は14音の季語「雷乃声を発す(かみなりすなわちこえをはっす)」である。しかも2音の「」の項目にも、同時期の季語があれば、4音「陽春(ようしゅん)」「青帝(せいてい)」なども示されている。確かに、実作上、音数を整える季語の斡旋に役立つかもしれない。


 岸本尚毅(きしもと・なおき) 1961年、岡山県生まれ。

 西原天気(さいばら・てんき) 1955年生まれ。



           撮影・鈴木純一「神代より花を守るは踵に目」↑

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