攝津幸彦「南国に死して御恩のみなみかぜ」(「Sister On a Water」第5号より)・・
「Sister On a Water」第5号(シスオン)、巻頭は、山内将史「海ほおづき」(ラジオドラマ・脚本)である。注に「本作品はNHK・FM『青春アドベンチャー』(2000年2月9日)にて放送されました。演出は中島由貴」とある。20年以上前のものだ。 攝津幸彦の句が引用されている部分は、
波子 ふるさとから吹く風だ。気持ちがいいなあ。
太郎 摂津幸彦(せっつゆきひこ)の俳句に、『南国に死して御恩のみなみかぜ』というのがある。
南の海から吹く風は、南の島で戦死した人達が祖国に向かって吹かせるんだよ。ゴオン、ゴオン、と吹いてくるんだ。北の海だって同じだよ。アッツ島あたりから吹いてるんじゃないかな。
波子 太郎くん、まだ俳句なんかやってるの?
というシーンである。本誌の内容といえば、さらに詩、短歌、俳句の作品が掲載されている。発行者は喜多昭夫で、本号には詩編「セザンヌ」を発表している。、別名を摂氏華氏といい、おもに俳号として使われているが、本誌今号では短歌・俳句・散文の同時掲載である。創作の際に、文体というかスタイルの混同は生じないのであろうか。多才といえば多才。また、同じ上掲の写真にある「つばさ」(つばさ短歌会)の喜多昭夫は、歌人としの主宰誌である。
特集記事は、竹中優子。この方も詩集『冬が終わるとき』(思潮社)があり、「輪をつくる」で角川短歌賞を受賞している多才の人だ。他に、中西亮太「勾玉胎児模倣説と葛原妙子」に注目した。ともあれ、以下に、短詩形のみになるが、本誌より、いくつかの歌、句を挙げておこう。
馬の図鑑めくればあなたの瞳(め)と遭えり栗毛の顔にきょうは嵌められ 大森静佳
欧州の麺麭(パン)籠
ふっくらと焼けたパンを掲げる母親(はは)
烏克蘭(ウクライナ) 小林久美子
くちのなかつめたく香りジャスミンは可能世界に咲くなつの花 笠木 拓
恋つづく朝の納豆分けおうて 山田耕司
息継ぎと息暁闇の露時間 黒岩徳将
明烏林檎を食うたことあるか 森尾みづな
ワンテンポ遅るるハンドベル聖夜 摂氏華氏
退屈に強いこころをさらけ出しこの手につかむ胸とおっぱい 遠野 真
シャンプーのボトルの口に溜まりゆく塊を日々と呼ぶとりあえず 道券はな
輪ゴムにはいろんな使い道がある瞑想すれば手錠にもなる みづなandアキ
芋煮れば芋甘くなる芋に似た両手を閉じて父は死にたり 竹中優子
犬といふ言葉が犬の形(なり)をしていちもくさんに駆けていくところ 摂氏華氏
みえないままあふれる痛みをバスタブのなかをみたして湯気にとかして 西村玲美
サイレースロキソプロフェンハルシオントリプタノールメタンフェタミン 菊池あき
くれなゐが深まるまでに書くつもり書けば生まれる秋の近況 杉森多佳子
★閑話休題・・山内将史「春風に三角乗りの女学生」(「山猫便り」2022年2月16日付け)・・
山内将史つながりで「山猫便り」(2022年2月16日付け)、昔は「山猫通信」だったが、今は「山猫便り」という葉書通信を継続して発行し続けている。それには、
(前略)安井浩司から一昨年九月~昨年六月に十五枚葉書を頂いた。以下抜粋。
「拙作はみな、にせの記憶を展げているのです」「瓢乎の思想に支えられている。それが俳句形式です」「わが青春、書斎の窓より遥か『山毛欅林』を望む日々でした」「死よ堂々と来たれ、ただそれを念じ居ります」
とあった。
撮影・中西ひろ美「札幌に雪は残っているか聞こう」↑
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