秦夕美「『おうい雲よ』とびたつきはの菱喰よ」(『雲』)・・
秦夕美第19句集『雲』(ふらんす堂)、挟み込まれたはがき様のふらんす堂・山岡喜美子「ご挨拶」に、
去る一月二二日(日)に秦夕美氏はご逝去なされました。
この句集の出来上がりを楽しみにされていたのですが、手にとっていただくことがかないませんでした。装丁と造本についてのご希望をうかがい、あとはすべて任せるとおっしゃっていただきました。見本の校正刷りをご覧いただけたのが最後となりました。
本句集は俳人・秦夕美の最後の句集となります。
とあった。愚生が知ったのは、先日、2月4日(土),文學の森「俳句界」社長・寺田敬子から聞かされた。実は、昨年の現代俳句協会「第59回現代俳句全国俳句大会」(11月2日・北九州小倉で開催)の直前、愚生のシュートメールに「九州に来られますか」と送られてきたが、いつものことと思い、(それにしても、舌たらずのメッセージだったので)そのままにしてしまったが、寺田さんのお話によると、その日が秦夕美に会った最後で、随分と痩せられていたとのことだった。享年84.今はご冥福をい祈るばかり・・・。
また、本句集の「あとがき」には、
雲はいつ、どこで、その最初の姿を見せたのだろう。「雲」と名付けたのは誰だろう。そんなことを考えながら、今日も雲を見ている。(中略)
題名が漢字一字の句集は持っていない。メインディッシュのあとはデザートが欲しい。今回はトリコロールといこう。蒼(青)、白、赫(赤)、の章立てにしてみた。さてお味は?と書いて、次の句集名が浮かんだ「?」だ。「?」はいろんな呼び方があるけど記号の一つなので「記号」と読ませる。(中略)
昔から、なりゆきまかせで生きてきた。何か決断しなければならない時には、動物的なカンに従った。それが自分にとって一番いいように思えたから、八十四歳、箸にも棒にも掛からぬ齢になって、句集を出せる幸せ。私の思いを形にしてくれるふらんす堂さん、読んでくれる人たち、まわりで支えて下さる皆さん、心から感謝します。
はつなつの風とながるゝ薄雲と
とあり、文字通りの遺句集となった。さすがは秦夕美、次の句集は、ついに『?』。見事というほかはない。次の句集名も決めて逝ってしまうんだから・・・。ともあれ、集中より、いくついかの句を挙げておきたい。
われに若い日のある不思議雪卍 夕美
白鳥は光ついばみつゝありぬ
かたはらにすゞなすゞしろ雲のいろ
毛穴より沁む虎落笛戦雲
時効とはゆかぬことふゆ万愚説
欲シガリマセン銃後には恋の猫
竹の春ほんとに遠くない戦火
母乳の香よぎる八月九日
小鳥にも享年かろやかにせゝらぎ
蛍とぶ返つてこない音ふえて
弾道のごとく虹立つ日本海
風鈴やどくろは舌をもたざりき
日の本の雨の桜と赤紙と
ももさくら死や死や汝をいかにせむ
零戦の破片とおもふ月日貝
遠野火や金と銀なき千羽鶴
秦夕美(はた・ゆみ) 1938年3月25日~2023年1月22日、享年84.
撮影・中西ひろ美「母の胸に101歳の花咲かす」↑
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