馬場龍吉「どの筆も平和と書きて進級す」(『ナイアガラ』)・・

 


  馬場龍吉第一句集『ナイアガラ』(北辰社)、装丁は著者自装。その「あとがき」に、


 俳句とは関係ないものの句集名『ナイアガラ』は二〇一三年十二月三十日に他界された敬愛する作曲家大瀧詠一氏のナイアガラレーベルの「ナイアガラ」から頂いたものです。(中略)

 さて本題の句集ですが、句集を編むという考えは句作当初から持っていなかったので自作を控えてはおらず初期から近年までの大半の作品は失っています。

 季語と俳人はお釈迦様と孫悟空のような関係で、季語をどこまで扱っても季語を従え越えることはあり得ません。季語はお釈迦様であり宇宙なのですから。

 遅筆なためようやくたどり着いた一書。とはいえ琴線に触れるものがあるという保証はありません!ので笑ってお許しを!


 とあった。とはいえ、集名に因む句は、


   名を問へばナイアガラとぞ作り滝    龍吉


 ではなかろうか。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。


  玉虫のこの世の色をつくしけり

  居居居なつうぐひすや去去去

  ことしまた風鈴の釘つかひけり

  吹越と海の雪とが混じりあふ

  竜天に昇り煙は地を這へる

  とつてもとつてもとつても草じらみ

  日向ぼこしてゐる影のありにけり

  釣銭の落ちてこりがる海市かな

  淡雪のここで川音変はりけり

  頬杖をつかなくなつて四月馬鹿

  さくらさくらくらくらさくらちりぬるを

  兵隊サン未ダ還ラヌ敗戦日

  有形はいつか無形に流れ星

    悼 大野朱香

  さみしきは君の手折りし男郎花

   (〈これはもう裸といへる水着かな〉句集『はだか』の著者

                     二〇一二年九月逝去)

  歔欷(きょき)をもて水に浸みゆく律の風

  目をつむる紅葉のこゑに触るるとき

  空よりも雪の明るき日本海

  波は過去を砂にかへゆく寒霞


 馬場龍吉(ばば・りゅうきち)1952年、新潟県見附市生まれ。



★閑話休題・・「マンガ家・つげ義春と調布」展(調布市文化会館たづくり2階北ギャラリー・無料・1月22日まで)・・




 「マンガ家・つげ義春と調布」展」(於:調布市文化会館たづくり2階北ギャラリー)2023年1月5日(木)~1月22日(日)10時~18時。愚生の予定によると、本日しか行ける日がないので、調布まで出かけた。京王線府中駅からだと新宿方面の特急で次の駅だから、乗ってしまえば近い。自宅からでも30分ほどで行ける。もとはとえば、夜窓社のフェース・ブックの記事で知った。拝観料は無料といえども、なかなかの充実ぶりである。「妻・藤原マキ(1941~1999)さんのこと」も丁寧に紹介してあった。つげ義春は年譜によると今年86歳である。愚生は、会場横に貼ってあった映画のポスター「蒸発旅日記」(山田勇男監督)に、先般亡くなった岡田博のワイズ出版制作と記されてあったので、少しばかり感慨を持ってしまった。皆さんご覧あれ!!



        芽夢野うのき「遠くまで知らん顔する鴨よ来い」↑

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