大井恒行「折り曲げてトランプ重き花骨牌(はながるた)」(「飢餓陣営 KIGAZINEI」60号・2025年夏・終刊号より)・・


 

   「飢餓陣営 KIGAZINEI」60号・2025年夏・終刊号(編集・発行人 佐藤幹夫)、特集は「三島由紀夫-百年の孤独」、特集の執筆陣は、●往復メールーー「森鴎外と三島由紀夫」/村瀬学「『高瀬舟』の多元的な世界ー『飢餓陣営』の試みと『大地プロジェクト』の試みに向けて」、佐藤幹夫「鷗外と三島由紀夫の『仮面』の『告白』、そして『世界99』」、●論考に、青木由弥子「読書ノート―三島由紀夫『音楽』を読む」、高野尭「『真夏の死』に至る二元論的アプローチ」、佐藤幹夫「三島由紀夫『金閣寺』精読―動機と『四』の構造、障害表象、有為の弁証」、蓮沼ラビィ「自前の太陽で輝く三島由紀夫の女たち」、●対話に北明哲+佐藤幹夫「ドキュメント『三島由紀夫と吉本隆明』(引用の織物)―—それぞれの『敗北の構造』、共振するドラマツルギー」、●コラムに佐東藤吉郎「作品ガイド 長編小説を中心に『見取り図』を描く。

 【小特集】の「藤井貞和を読む」には、高良勉「藤井貞和と琉球弧の文学・思想」、神山睦美「南島歌謡と柳田民俗学--藤井貞和『古日本文学発生論』」、添田馨「純粋言語の文法学--藤井貞和『文法の詩学』がきりひらく世界」、江田浩司「〈うた〉に内在する古代と現代」―—藤井貞和著『古日本文学発生論 文庫版』を読む」。他に【追悼・西尾幹二】、書評など。光栄にも、愚生は俳句作品「なみだ橋」を寄稿させていただきました(上掲写真)。深謝!!

 そして、佐藤幹夫の「編集後記」に、


●『飢餓陣営』六〇号をお届けします。いよいよ「終刊号」です。やっとこれで重い荷物を下せるという安堵と、本当に終わってしまうのかという半信半疑が、相半ばして行き交っています。基本的には楽しかったし、すべての作業が一つも「苦」にはなりませんでした。寄稿やインタビューのお願いを差し上げ、皆さんが無理難題にもかかわらず応じて下さったこと。北海道から沖縄まで、長きにわたって講読して下さった読者の方々の応援。印刷屋さん。売れない雑誌を置いてくれた書店さん。どれを欠いてもここまで続けることはできなかったはずです。原稿が書けなかったり、企画が浮かばなかったり、楽なことばかりでないのは世の常。それでも楽しくて「苦」にならなかったこと、多くの方々に協力と支えをいただいたこと。この二つが、六〇号まで続けることができた最大の要因だろうと思います。物心両面で支えて下さったすべての方々に感謝を申し述べます。(中略)

●『飢餓陣営』以後をどうするか。一つは、一五年ほどお世話になってきた困窮者支援のNPO「ふるさとの会」との協働の作業として、『てくてく――対話的支援の世界』という雑誌をつくることになりました。(中略)この編集と続編の執筆が、当面の次の仕事に。『飢餓陣営』での重要なテーマだった「福祉」や「ケア論」をこちらに集中させ、遠慮しながらも図々しく、わたしの色合いを押し出していきたいと考えています。


 とあった。ともあれ、本誌本号掲載作品から、短歌、俳句の作品を以下に挙げておこう。


  この夏のダイコンオロシの辛さかないつそ俳人になつてしまおか  佐藤通雅

    酢と油をまぜようとしても混ざらない。油を細かくするだけだ。酢が時で油が私    

    だ。思惟や気づきなどは油の粒子だが、それも粒同士でずっとまざりあわずに流動    

    する。ー終わりー、完全な沈黙は、私の手の中には無い。

  金魚いる鉢手でかき混ぜて夜を作る               古田嘉彦

  にっぽんや米中韓露(べいちゅうかんろ)しぐれつつ       大井恒行



      撮影・中西ひろ美「明易し蕾のなかにいるような」↑

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