白井達也「初燕ベッドの上の吸引器」(『もりこ合同句集 おでかけ』より)・・


 『もりこ合同句集 おでかけ』(もりこ俳句な会)、政成一行「あとがき」には、


もりこ合同句集は重症心身(・・)障がいの人たちの作品集です。千葉県茂原市にある母里子(もりこ)ネットは障がい児・者の母親たちが自ら立ち上げたNPO法人で、デイサービスの活動として音楽や工芸などと並んで俳句の時間が生れました。そのきっかけは、私が俳句を作っていることを知った金網真希さんから「俳句、。やりたい」と熱心な声が上がったこと。はきはきして明朗快活な彼女がいなかったら「俳句な会」は実現せず、ましてや十年にもわたって続かなかったことでしょう。

 この施設の利用者は医療を含めて日常生活動作に介助を必要としますが、活動できる人にもペンが握れない人や声を出せない人がいます。それで文字盤を使ったり時間をかけてパソコン入力したり、と工夫の積み重ねでした。担当職員もまた、各人の個性を心得た見事な聞き取りと通訳で、さながらパラマラソンの伴走者のようにサポートしてくださいました。(中略)

 本句集は、Ⅰ初期を彩り退所された方、Ⅱ継続参加の方、Ⅲ最近参加された方と三部に分け、全三五一句を各人・編年式に並べました。もともと俳句を通した言葉あそび(リハビリ)を主眼としたが、年月を経て素直で自由な句として〈個性的な俳句らしさ〉が出てきたようです、師・伊丹三樹彦の「凡句の道 辿れば至る 秀句の門」を実感しています。参加者の皆さん、ややもすれば引き籠りがちで行動半径も狭められるだけに、俳句づくりは新しい世界への一歩を踏み出す機会となりました。(中略)人は周りの色に染められながらも、新しい自分の色彩を放ちはじめる。その自分にしか詠めない一句こそ秀句への入口といえましょう。そうした思いをこめて、句集名を『おでかけ』としました。


 とあった。ともあれ、以下にいくつかの句を挙げておこう。


  とろとろとクリームチーズとなる冬田       金綱真希

  秋めくや忘れないでね僕のこと         

    (退所時の挨拶句だが、奇しくも絶句となる)  杉田誠則

  五月雨をはさんで食べるハンバーグ        野元真一

  しりとりのカードめくれば蝶になる        井上 舞

  サッサッサ芒揺らして空を掃く          森真莉子

  「おでかけ」の短冊ゆれる星まつり        松崎あゆみ   

  どんぐりころころ車椅子(マイカー)ごろごろ ゴールなし

                           三上香絃

  口ずさむ どんぐりの歌があるいている       飯田克己

  行ってきます バックミラーの朝ざくら       齊藤加奈

  お空のパン食べてよろこぶ吹き流し         小宮大河

  折り紙の聖樹にこめるアイ・ラブ・ママ      及川奈生子



★閑話休題・・政成一行「ととのえば歩行 あるけば呼吸 日脚伸ぶ」(「青群」第66号)・・


 前述の『もりこ 合同句集』(もりこ俳句な会)を刊行した「青群」第66号(青群俳句会)から政成一行の句を挙げた。その編集後記に政成一行は、


 (前略)私などこの一年間手術と入退院をくり返す中で、着想は凍て創意減退し眼前の身体感覚しか詠えない有り様である。動きが狭められるその包囲網をすり抜け脱却する方位、巻き返す支点はどこか?やはりそれは三樹彦の〈存在と軌跡〉に見出せるだろう。


 と記している。奮闘に敬意!!!


      撮影・芽夢野うのき「さっきから白髪ふれて山紫陽花」↑

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