岡崎由美子「沙緻の忌の卓に新茶と新刊書」(『くれよん』)・・


 岡崎由美子第一句集『くれよん』(朔出版)、序句に、


  くれよんで猫の絵を描く涼しさよ      大木あまり」


 序文は山本潔、その結びに、


   寒星の欠片こつんと空缶に

   野遊びの子らは光の妖精に

この二句はエピローグの最初と最後に置かれている。プロローブの江ノ電の句が実景を写生していたのとは対照的に、いずれも心象的でメルヘンチックな内容だ。写生に徹していた頃とは明らかに異なる独創的な俳句を探索し始めていることが窺える。

 句集『くれよん』はエピローグで終わるが、由美子さんにとって俳句の終章とはなりえない。むしろ、四半世紀を超えた俳句の新たなる道への序章となることだろう。そうなると信じて筆を擱きたい。


とあった。また、著者「あとがき」には、


(前略)私と俳句の出会いは、平成九年四月、NHK文化センター東陽町教室に入会したのが始まりでした。「俳句の作り方教室」と勘違いしていた私は、いきなり句会の席に座らされることになり、大いに戸惑ってしまいました。そんな私に畠山譲二先生は「続けていれば楽しくなるから、途中で辞めては絶対に駄目だからね」と明るく声を掛けてくださいました。(中略)

 だからこそ、その後の舘岡沙緻先生、山本潔先生との出会いがあり、東陽町教室で出会った句友との長い交流も続いています。


とあった。因みに本集に因む句は、


  父の日のくれよん書きのラブレター    由美子


である。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  強北風に高き鳶の輪歪みけり

  百歳の母と二人の春炬燵

    「海嶺」主宰・畠山譲二師を悼み

  先生に別れを告げし夜の驟雨

  透きとほることの淋しき葛湯かな

  甌穴の底まで青しえごの花

  海の日や地球儀青きまま古りて

  風鎮のことりと壁に涼新た

  「さよなら」のいつもの握手春の星

  亡き人に文出すポスト陽炎へり

  犬の仔に銀杏落葉の降るよ降る

  風に鳴るテントを灯し飾売

  ザラ紙の中也詩集やヒヤシンス

  父の忌の庭を離れぬ黒揚羽

  炎昼や破裂しさうな瓦斯タンク

  ぽつねんと父の勲章開戦日

  雛仕舞ふ雛の吐息と吾が吐息


 岡崎由美子(おかざき・ゆみこ) 1943年、旧満州新京生まれ。



      撮影・芽夢野うのき「紫陽花のある日雨路地裏の雨」↑

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