岡田由季「幼虫の記憶の失せし蝶の昼」(『中くらゐの町』)・・


 岡田由季第2句集『中くらゐの町』(ふらんす堂)、挿画は吉永直子、装幀は和兎。 著者「あとがき」の中に、


  三十代までに十数回の転居をしましたが、気が付くと、今の住居での暮らしが十九年ほどになります。都会でもなく、本当の田舎でもない、当地での生活にいつしか馴染んだようです。ここ数年はコロナ禍ということもあり、一層地元と向き合うことが多くなりました。そのような生活のなかで、句の多くが生まれました。


 とある。集名に因む句は、


  中くらゐの町の大きな秋祭       由季


  であろう。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。


  日向ぼこ赤べこ同意しつづける

  内側に座つてみたき夜店かな

  間違へて入つてゐたり蜜柑山

  春寒しくしやくしやに揉む犬の顔

  飛ぶ犬と飛ばない鳥を飼ふ日永

  牡鹿声絞り出すとき舌も出し

  飛ぶものが飛ぶものを食べ秋半ば

  肉眼にも魚群探知機にも鯨

  裸木となりても鳥を匿へり

  笹鳴や光の粒の見えてくる

  月の夜のきれいな骨のはづしかた

  星涼し電卓のもう進化せず

  県庁と噴水おなじ古さかな


 岡田由季(おかだ・ゆき) 1966年、東京生まれ。


        芽夢野うのき「雨ストップ赤百合に音楽きたり」↑

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