抜井諒一「問診のあと春愁を診てもらふ」(『残影』)・・

 

抜井諒一第三句集『残影』(角川書店)、帯には、


 過ぎ去った/日々の翳りと残影……/寂寞の深淵から掬い上げた三三一句

 句集『金色』から/五年ぶり/待望の第三句集

   こんなにも桜と人とゐて独り


 とある。著者「あとがき」には、


 (前略)過ぎ去った日々が、ふと風景の中に立ち上がってくる。秋桜の揺れる畦道で、あるいは満開の花の散る下で。そんなときの言い知れぬ心細さを、十七音で掬い上げてきた。その翳りを、その残影を。


 とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を以下に挙げておこう。


  姫女苑みな花びらのどこか欠け       諒一

  ほうたるの飛ぶには闇がまだたりぬ

  夕蟬の鳴きつつ鳥に喰はれけり

  天瓜粉たたけばすでに寝てをりぬ

  山の影もろとも墓を洗ひけり

  きつつきや天を仰いでまたつつく

  歩かねば虫の音に沈んでしまふ

  枯芝や子に追ひつかぬやうに追ふ

  硝煙の匂ひのとれぬ冬帽子

  弁当を広ぐ桜に背を向くる

  残花より又もひとひら尚ひとひら


 抜井諒一(ぬくい りょういち) 1982年、群馬県高崎市生まれ。



★閑話休題・・宮尾節子「『おまえは、恋を分かち合えるとーー?』/愛国でも、憂国でもなく、国を思う心を恋国としてここに詩を捧げる。」(詩集『恋国(こいこく)』より)・・


 宮尾節子『恋国』(言視舎)、の詩の一部を引用紹介する。


     麦の青、声の黄色

 男が

 殺すなら

 女が

 産んでやる


 男が

 殺し続けるなら

 女が

 産み続けてやる   (中略)


    男が

 とめられないのなら

 女も

 とめられやしないのだ

  

 殺される傍らで

 産み続けることを


 子の

 希望を。


 砲弾だらけの畑の土は

 覚えている

 踏まれても踏まれても


 立ち上がった麦の青を


 声の

 黄色を。


  宮尾節子(みやお せつこ) 1951年、高知県生まれ。  



          撮影・鈴木純一「千鳥よぶ娘と男いれかわり」↑

                 淡島千景 2012年2月16日 没

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