中井三好「命のカプセルがぶるっ蝌蚪(かと)の紐」(『「や」「かな」「けり」捨ててこそ……』)・・
中井三好著『口語体俳句論・句集 「や」「かな」「けり」捨ててこそ……』(彩流社)、その「はじめに」に、
俳句で最も魅力あることばは、なんと言っても「何々や」「何々かな」「何々けり」と気分よく詠み上げることばである。(中略)
この切れ字は日常のことばづかいの中から生まれたのではなく、これは、文字で書くことばとして発達してきたもので、これらの文章の体裁(ていさい)を文語体(ぶんごたい)と言っている。芭蕉も人と話をするとき、「何々や」とか「何々けり」などとは言わないで、普通の口語体で話をしていたと思われる。(中略)
ところが、この人たちが何故か俳句では、慣れない文語体を使っているのである。(中略)
これは、俳句づくりの時間を自分の感性を磨くことに費やすのではなく、衒った古語のことば探しに費やしているからである。あたら感性を、文語体という面倒なレンズの屈折を経て表現しようとしているから、こうしたことが起きるのである。(中略)
私の口語体俳句は、一般に人々が口語体として思い描く自由律ではない。五・七・五の十七文字の定型である。これはゆるがない志向である。
とあった。本書の後半は、句集『口語体句集―—ちょっとした町で』である。序文は山崎ひさを「序に代えて」である。その中に、
作者は、有季定型、文語体の俳句に合わせて、今後の俳句の在るべき方向として、いわゆる口語体俳句を指標し、その実作を熱心に試みておられる。すでに二十数年の実作経験を重ねてこられた。
とある。ともあれ、集中より、いくつかの句を挙げておこう。
B29が来たときもホタルの夜 三好
絵に描けば故郷の雪があたたかい
木枯らしがぶつかっている服部時計店
亀の子が逃げる香具師(やし)の手掃き寄せる
豚一頭売られた後の春の泥
出稼ぎの村賑わって霜柱
スペイン・ゲルニカの前で
轟々とと春夏秋冬崩れ行く
北海道・日高、沙流川(さるがわ)を見下ろす丘で
寝ころべばコロボックルが出てきそう
油蝉殻に残した白い緒(いと)
中井三好(なかい・みよし) 1937年、富山県生まれ。
撮影・中西ひろ美「三月や野も雨もまだ知らぬ靴」↑

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