杉山一陽「しゃっくりを忘る夕の大くしゃみ」(『案山子』)・・


  杉山一陽第一句集『案山子(かがし)』(コールサック社)、その「あとがき」に、


 突然、漢方医に腎虚と宣告されました。この年になって人の秋を知る。

「昨年出来たことが今年は出来ない」、「おそらく、今年出来たことが来年出来ない」を実感しました。

「絵は人生を映すもの」という、私の絵描きとしての立ち位置の通り「俳句は人生を映すもの」という立ち位置で、この句集『案山子(かがし)』を作りたいと思い立ちました。(中略)

 これは道半ばで、本句集には無季、季重、三段切れ、観音開き、自由律、乱調、中八、文語口語の混在、新旧仮名の混在、果ては短歌まで含まれています。(中略)

 お陰様で、作者、在世のうちに句集『案山子』が完成しそうです。


 とある。従って、表紙絵は、絵描きである本名・杉山陽一である。題字も杉山とし子、とあるから近親の方であろう。ともあれ、愚生好みに偏するが、本集より、いくつかの句を挙げておこう。


  まず海の日の出を受けるみかん山      一陽

  交叉点音だけ急ぐ消防車

  エサやりを忘れていたに寒卵

  私が虫でも旨そうなキャベツ

  噴水のあるようでなしリズム感

  焚火する種火の新聞紙の匂う

  石神井へ亀の鳴き音聞きに来よ

  旅かばんおととしの空入れたまま

  妻籠(つまごめ)の秋の泉の水みくじ

  麦の秋熟れて乾きてゴッホの黄  

  杖櫂(つえかい)に渡る歩道や彼岸まで

  細雪蛇(じゃ)の目(め)を出ずる別れかな

  核戦争今年は無事に初日の出

  かたぐるま子供が高し秋祭り

  廃校の子らの幻炎天下

  エスカレーター残暑の街にせり上がり

  どのむくろから落ちたのか桜貝

  閉じた目の今際(いまわ)の涙干(ひ)る前に母の面影胸に刻まむ


 杉山一陽(すぎやま・いちよう) 1946年、東京新橋生まれ。



     撮影・中西ひろ美「待つとする冬の苺のめでたさを」↑

コメント

このブログの人気の投稿

高篤三「Voa Voaと冬暖のメトロ出る河童」(『新興俳人 高篤三資料集』より)・・ 

田中裕明「雪舟は多く残らず秋蛍」(『田中裕明の百句』より)・・

渡辺信子「ランウェイのごとく歩けば春の土手」(第47回・切手×郵便切手「ことごと句会」)・・