岩﨑俊「沈々と深々とあり枯葎」(『風の手紙』)・・
岩﨑俊第一句集『風の手紙』(角川書店)、序は増成栗人。その中に、
椎若葉風の手紙の届きけり
書名となった作品である。「風の手紙」とは紛れもなく岩﨑俊氏の己が心との対話であり、如実に著者の人柄を伝達する一語だあると思っている。こうした自然との、暮らしとの対話が著者の俳句の本質。静かな息遣いの中で全てを受け入れるような寧らぎのある一句である。椎の若葉をやわらかく揺らす風のたたずまいの中に、著者の心音が聞こえ来るような思いがする。
とあり、また、著者「あとがき」には、
(前略)この七年の間には、東日本大震災があり、また義母と母を相次いで亡くし、生と死について考えざるを得ない期間でした。五十代から発症したパーキンソン病についても、現実を受け入れて向かい合う必要がでてきた時期でもあります。
題に選んだ「風の手紙」は私の句〈椎若葉風の手紙の届きけり〉から採ったものです。この句を作るとき、いくつかのことが頭に浮かびました。たとえば十八年前に、猫らしく誰も近づけずに死んだ風(ふう)という飼い猫のことです。家族で一番深く心を通わせていた当時高校生の息子は「一番大切な人が死んでしまった」と呟いたものです。
とあった。岩﨑俊は、昨年夏、現代俳句協会の新会員のために「全句講評講座」が開設された。その折、愚生が、ユーチューブ視聴可能者のためにの講師を務めたときの受講者であった。その時の俳号は「草 俊風」。そのとき、愚生は俳号にフリガナがなく、読み方がわからなかったので、「草(くさ)さんですか? 「そう」さんですか?」と呼びかけたのだった。句は、
どのように生き抜いていま仔猫鳴く 草 俊風
シクラメンが鳴く雀らの来ぬうちに
だった。少し、講評し、句柄について、参考までにと、添削の候補をいくつか示したようにも思う。その後、日を経て、本句集を恵まれたので、岩﨑俊=草俊風だということがわかった。本句集には、平成21年6月から平成28年5月までの7年間の336句が収録され、2016年8月25日発行、すでに8年近く前のことになる。
ともあれ、愚生好みに偏するが、本集より、以下にいくつの句を挙げておきたい。
水際の枯色もまた春の色 俊
ちびちびと白湯はらはらと春の雪
囀りの森の奥まで大入日
蝌蚪のゐて水口の音なかりけり
義母永眠
百合の花添へて棺に釘を打つ
どくだみの花と蕾を摘んできし
半夏生草とはみどりごの白き沓
蟇そのままここで暮らさぬか
一木一草暑さの底に沈みゐる
虚子立ちし丘を真白き夏の蝶
水打つて朝の雀を呼びにけり
頼るべき木を頼りゐる凌霄花
虚も実も泡立草の野でありぬ
母いかに秋海棠の日矢の数
落葉掃くときには落葉しか見えぬ
寒林の人を拒みてゐたりけり
岩﨑俊(いわさき・しゅん) 1948年生まれ。
撮影・芽夢野うのき「懸命の冬日にかっと手を伸ばす」↑

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