山下一路「世界同時かなしい日に雨傘が舗道の上をころがる制度のような驟雨」(『世界同時かなしい日に』)・・
山下一路第3歌集『世界同時かなしい日に』(書肆侃侃房)、編者は飯島章友・沢茱萸・高柳蕗子・土井礼一郎。栞文は伊舎堂仁「二周目の前に」と坪内稔典「はははぽちゃぽちゃ」。「編者あとがき」(共同編者 飯島章友)の中に、
(前略)本歌集は歌誌「かばん」の仲間四名による共同編集で、故山下一路の第三歌集となります。収録された短歌は、山下一路の第二歌集『スーパーアメフラシ』(青磁社、2017年)以降に発表されたものが中心です。加えて、第一歌集『あふりかへ』(視原社、1976年)と先の第二歌集からも少しだけ短歌を選出し、掲載しました。(中略)
山下短歌は、人々が日常生活を優先する中で「考えなくなっている事柄」を寓意的にではありますが伝えようとしています。文体こそ軽みを持っていますが、本人はちっとも面白がらず、溜飲も下げず、深く悲しんでいるようです。それは絶望と紙一重だったかもしれません。しかし、「考えなくなっている事柄」は「失くしたもの」とは違います。読者は山下短歌によって耳底をちくっと刺激されつつ、「考えなくなっている事柄」を再帰的に捉えることができるはずです。
とあった。ともあれ、本集より、みなまで挙げきれないが、いくつかの歌を挙げておきたい。
君の窪みをなでて叶えられない九条みたいな全体を想う 一路
だれも傷つけたことのないゾーリンゲン 青春が終わってしまう
「す」「さす」「しむ」非正規で使役の助動詞にくっつく自己責任は
世代かん格差是正したいのでもう少し詰めてください貧困の側
これは食べ物ではありません口から溢れ出す倫理です
きょくたんな貧困の記憶は手元にはありませんボクはちがうので
メルカリでインコを買う年金受給期間より長寿のインコを
生きているエビデンスが欲しいクラゲで海が覆いつくされる前に
少年よ大志をいだくなその島は「戦争しかないじゃないですか」
このまま心不全で去(い)ったなら遂に役立たずでしたアフラック
むかえに行くよ 世界同時晴れた日にビーチサンダル履いて海まで
ジンタカタッタダークダックス小さな春を抱えて海を渡れば
赤く光ってて〈なんだ〉どこにもつながってない非常ドアですね
ああやはり「なりけり」ですか、ボワッっとした世界観に慣れてしまえば
金魚みたいにパクパクするため無呼吸に適切な圧を調べます
なんでもお取り寄せのできる世界だけど銃がなくても人は死ぬ
全世界同時夕焼けに顔が染まる少し塩味が強いけどここが廃墟だ
たいせつなことはここでは教えないと教えてくれた教室の椅子
たんぽぽのぽぽひとつひとつに分散しぽぽそれぞれが春の軍隊
山下一路(やました・いちろ) 1950年3月14日~2023年4月9日。享年73.
★閑話休題・・いーぐる 連続講演第721回「ピアノ・ジャズなら“リヴァーサイドだ!」司会:村井康司、解説:後藤雅洋(於:四谷いーぐる)・・
左・後藤雅洋 右・村井康司↑昨日、12月7日(土)は、都内に出るついでに、いーぐる連続講演に寄った。
案内には、「海外のジャズ。ファンからも好評の JAZZ KISSA発コンピ CDシリーズ19回目は、ブルーノート、プレスティッジと並ぶ『ジャズ3大レーベル』リヴァーサイドの看板役者、セロニアス・モンク、ビル・エヴァンスに代表される『ピアノ・ジャズ』に焦点を当てました。/リヴァーサイド・レーベルはジャズ評論家であるプロデューサー、オリン・キープニュースによる独自の制作方針によって、ジャズおけるピアノに新た光をあてました」とあった。
撮影・芽夢野うのき「手の届くところ黄葉月下の欅」↑

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